そもそも介護とは何なのか
介護という言葉の移り変わり
日本の法令の中に初めて「介護」という言葉が登場したのは明治の中期です。当時の意味合いは現在のものとは少し異なり、身体がどの程度不自由なのかに応じて公的な給付を行うため、その対象者を特定する用語として使われていました。
その後、老人福祉法が制定された1963年以降には特別養護老人ホームが誕生し、当初よりも広義な「高齢者や障害者の身のまわりの世話」といった意味合いに変わってきます。現在の「介護」のイメージに少し近づいたようにも感じますが、1987年に成立した社会福祉士および介護福祉士法による定義では、「日常生活を営むのに支障をきたす身体や精神の障害を持つ人に対しての入浴・排せつ・食事・その他の介護」とされており、この時点ではまだ限定的で形式的な印象を受けます。
人生の質を高めるためのもの
その後「介護」という言葉が現在のような意味に変わっていくまでには、高齢者や障害者についての社会的な考え方の変化が大きく影響しています。
前述の社会福祉士および介護福祉士法の2007年12月の改定では、「入浴・排せつ・食事・その他の介護」とされていた部分が「心身の状況に応じた介護」に変更されています。このような変化は、介護保険法や障害者自立支援法が制定されたことだけでなく、尊厳を守ることやその人の人間性を大切にすることが人々の望ましい姿であるという社会的な考え方の変化によるものと言っても過言ではないでしょう。
2015年度から適用されている介護福祉士国家試験出題基準の中では、介護はただ技術的なものではなくて、人間的・社会的な営みであるとされています。「介護」という言葉は、こうして「生活の質や人生の質を高めるための総合的生活支援」という意味合いに成長してきたのです。
本当の意味での支援とは何なのか
総合的生活支援と言っても、その中には当初から行われている排せつや食事など基本的な支援も含まれています。変化したのは、どんな目的のために、どんなことを大切にして行うか、ということなのです。
例えば、トイレでの排せつを1人では行えない被介護者に対して、おむつをはいてもらうことは適切な支援と言えるでしょうか。そうしたいと言う人もいるかもしれませんが、できればおむつではなくトイレに行って用を足したいと思っている場合もあります。そんな人に対して、介護者の手間や効率を優先して無理矢理おむつをはかせるのは、尊厳の尊重とはかけ離れた行為です。
また、少し介護者が手を貸せばトイレに行けるにもかかわらずおむつに頼りきるようになると、筋力低下や食欲減退につながったり、そこから寝返りが少なくなり褥瘡ができてしまうなど、廃用症候群を引き起こす可能性が大きいことも忘れてはいけません。
被介護者の、できることとできないことを見極め、その気持ちをないがしろにしないよう耳を傾け、根気よく見守ることが本当の意味での支援です。自立を促しながら必要なポイントで介助することが、モチベーションを高め生活の質を高めることにつながります。介護者にとって初めは大変なことかもしれませんが、適切な介護を続ければ結果的に被介護者ができることも増え、お互いの負担が軽減されるのです。